
世界的な太陽光ブームの中で再エネ拡大を進める日本、直面する課題とは
2025年9月8日
日本は依然として石炭や天然ガスに大きく依存しているものの、2050年カーボンニュートラルの目標に向けて着実に前進しています。2014年から2024年の間に、発電に占める太陽光の割合は約2%から10%近くへとほぼ5倍に拡大。さらに2025年前半には、化石燃料の比率が初めて60%を下回りました[8]。一方で、電力需要の増加、系統運用の複雑化、地政学的不安定性による不確実性などが、この移行に大きな課題を投げかけています。
図表 1
太陽光は日本と世界で主要な再エネに
世界全体では2024年に太陽光発電量が474TWh増加し、史上最大の伸びを記録しました。これはすべてのエネルギー源の中で最大の絶対的成長幅であり、太陽光は20年連続で最も急成長している電源です。設備容量もわずか3年で2倍となり、1TWから2TWへ拡大しました。風力の拡大と合わせ、2024年には世界の発電量の40%以上がクリーン電源となり、初めて大台を突破しました[1]。
日本も同様の傾向を示しており、太陽光はこの10年で水力を追い越し、発電量で国内最大の再生可能エネルギーとなっています[2]。さらに日本は世界第4位の太陽光発電国であり、主要経済国の中で土地面積あたりの太陽光設備容量が最も高い国でもあります[3]。
2025年2月に発表された第7次エネルギー基本計画では、太陽光の比率が現在の約10%から2040年には23〜29%へ拡大すると見込まれており、再エネの中で最も大きな比率となる予測です。これは原子力の20%をも上回ります。
エネルギー移行に立ちはだかる課題
太陽光の見通しは明るいものの、日本のエネルギー政策には依然として複数の課題が残されています。
ひとつは電力価格の不安定性です。輸入燃料依存に加え、欧州や中東の地政学的緊張が価格変動を招いています[3]。
図表 2
さらに、太陽光発電量は伸び続けている一方で、導入容量の伸びはFIT制度導入直後に比べて鈍化しています。主な要因は適地不足です。特に特別高圧(2000kW以上)の案件では、環境問題や地域住民の反対、主任技術者の不足などが導入の障害となっています。
低圧(50kW未満)の案件は別の課題を抱えています。土地は比較的確保しやすい一方で、小規模設備はコスト効率が低く、kWあたりの設置コストが高くなる傾向にあります。さらに、取引・報告・運用管理など日々の業務はポートフォリオが拡大するにつれて急速にコスト高となります。独立系発電事業者(IPP)からは、大規模設備における透明性ある収益予測や分析だけでなく、低圧ポートフォリオを効率的に管理するソリューションへの需要が高まっています。
また、世界的な課題も日本に波及しています。たとえば電力消費は2024年に世界全体で4.0%、日本で0.9%増加しました。その要因のひとつは猛暑です[1]。2024年は日本史上最も暑い年となり[4]、2025年7月も3年連続で記録的な猛暑を観測しました[5]。この傾向は今後も続く可能性が高いと見られます。
さらに、EVやオール電化の普及、データセンター需要の増加も電力需要を押し上げています[1]。日本では、データセンターと新設予定の半導体工場により、2034年までにピーク需要が7.15GW、年間需要が46.5TWh増加する見込みです。人口減少や省エネ努力といった需要抑制要因があるにもかかわらず、この増加が予想されています[6,7]。
将来の電力需要に対応するため、日本は再エネ利用を最大化する方針ですが、その変動特性を考えると系統安定化と需給管理の強化が不可欠となります。
手頃なコストとデジタル技術で移行を支える
今後数十年にわたり太陽光が主要な役割を果たすことを踏まえると、太陽光をはじめとする再エネを効率的かつ低コストで系統・市場に統合する技術の重要性は高まります。
蓄電池システムはこの移行の鍵となります。2024年には世界の蓄電池容量がほぼ倍増しました。その背景にはスケールメリットによるコスト低下や新たな電池化学の普及があります[1]。日本でもこの傾向は顕著で、当社データによれば、2025年4〜5月の蓄電池を活用した系統運用は前年同期比で160%増加しました。さらに日本政府は、脱炭素戦略の一環として蓄電池が需給調整・系統安定化に寄与できる政策を積極的に導入しています。
しかし、太陽光発電所や蓄電池システムの運用はますます複雑化しており、インテリジェントなプラットフォームが不可欠です。発電事業者やIPPとの対話では、運用の効率化、市場参加の簡素化、日常業務の自動化が求められていることが繰り返し指摘されます。これは政府が推進するデジタル化や、特に需給調整市場におけるAIやIoTの導入とも合致しており、今後の安定供給に不可欠な取り組みです。
太陽光は低コストかつ短期間で導入可能な特性を持つため、1年単位で市場を大きく拡大できるポテンシャルがあります。加速するエネルギー移行の鍵は、低コストかつ迅速に導入可能な技術をエネルギーシステム全体に広げることです。
今後の展望
今後数年の最大の課題は、経済成長を妨げることなく、競争力のある価格で十分な脱炭素電力を供給できるかどうかです。その実現には再エネ容量の拡大だけでなく、分散型太陽光や蓄電池の調整、電化や猛暑による需要変動の予測、そしてAIやIoTといった新技術を需給調整に統合する取り組みが不可欠です。
これらの課題に対応するには、長期的な脱炭素目標に沿った先見的な計画、データに基づく分析、柔軟な運用戦略が必要となります。エネルギー安全保障と経済的な強靭性を両立させるために、今まさに準備が求められています。
出典
著者

Andrés Salazar
Data and Energy Scientist